年末の新幹線は、いつも以上に賑やかだった。大勢の人々がふるさとへ帰るために、または旅行に出かけるために駅に集まっていた。私もその一人で、混雑を予想して指定席をしっかりと予約していた。旅の途中で立ちっぱなしになることは避けたかったからだ。
改札を通過し、プラットフォームに到着すると、すでに大勢の人々が新幹線の到着を待っていた。人の波をかき分け、ようやく指定された車両にたどり着いた。車内に入り、自分の座席を確認すると、そこにはすでに若い父親と小さな子供が座って眠っていた。
「すみません、ここは私の指定席なんですが」と静かに声をかけると、父親は顔を上げ、少し困惑した様子でこちらを見た。
「え?自由席ですよね?」と彼は言った。
私は少し驚きながらも、事前に確保した指定席のチケットを取り出して見せた。「いえ、ここは指定席です。こちらがそのチケットです」と言うと、彼はため息をつきながら言った。
「でも、子供が寝ているんですよ…」
その言葉に一瞬たじろいだが、私は心を鬼にすることに決めた。だって、私だって立ったまま長時間の移動をしたくないのだから。周囲の状況を確認すると、他の乗客たちはこちらの様子に気づいて、興味深そうに見守っていた。
「申し訳ないですが、私も指定席の料金を払っていますので」と毅然とした態度で告げると、父親は困惑しながらも、渋々子供を起こして別の席を探しに行った。
私はホッと胸を撫で下ろし、席に座って荷物を整理した。列車が発車する直前、ふと通路を振り返ると、あの親子が再びこちらに戻ってきていた。父親は少し興奮した様子で私に向かって声を上げた。
「ほら、自由席が空いているじゃないか!」
彼が指さす方向を見てみると、確かに自由席にはいくつかの空席があった。しかし、私は動じなかった。指定席と自由席では、そもそも価格も違えば、サービスも違う。私には私の権利があるのだ。
「ありがとうございます。でも、私は指定席を予約していますので、ここに座らせていただきます」と穏やかに答えた。
新幹線が動き始め、車内アナウンスが流れる中、親子は渋々と別の自由席に腰を落ち着けた。私は内心、もう一度こういったトラブルが起こらないことを願いながら、窓の外に流れる景色を眺めた。
新幹線がスムーズに走り始めると、車内には穏やかな静寂が広がった。私は本を取り出し、静かに読み始めたが、心の中ではさまざまな思いが駆け巡っていた。
なぜ、親子は指定席と自由席を間違えたのだろうか?年末の忙しさの中で、単なるミスだったのかもしれない。それとも、指定席を取ることができず、やむを得ずの行動だったのかもしれない。しかし、私たちはそれぞれの理由で指定席を予約しているのだから、それを尊重しなければならない。
車内販売のワゴンが通り過ぎ、私はコーヒーを買って一息ついた。車内の温かさと飲み物の香りが、私の心を和ませた。やがて、隣の席に座っていた年配の女性が声をかけてきた。
「大変でしたね。でも、あなたの対応は立派でしたよ」
その言葉に少し救われた気がした。彼女のように理解ある人がいることは、心強いものだ。
途中の停車駅で新しい乗客が乗り込み、車内は再び活気づいた。自由席の方からも、にぎやかな声が聞こえてきたが、親子は静かに座っていた。父親は窓の外を見ていて、子供は再び眠りについているようだった。
目的地に近づくにつれ、私の心も少しずつ穏やかになっていった。年末の旅は、これで一つの思い出となった。親子の一件は予想外だったが、それでも旅の一部として受け止めることができた。
新幹線が終点に到着し、乗客たちは一斉に立ち上がり、降りる準備を始めた。私も荷物をまとめ、席を離れようとしたそのとき、再びあの父親が近づいてきた。
「さっきはすみませんでした」と彼は申し訳なさそうに言った。
私は微笑み、ただ「お気になさらずに」と答えた。それが、この旅の最後のやり取りとなった。
ホームに降り立ち、人々の波に流されながらも、私は心の中で少し成長したような気がした。人との出会いと別れ、それが旅の醍醐味なのかもしれない。こうして、私の年末の旅は幕を閉じた。
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